マーク短歌めくり集

しなののうた杉田白百合

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季節の移り変わりを感じながら、あるいは旅行先の風景の向こう側を見つめながら、そしてたどってきた道を思い起こしながら。 信濃の国、善光寺平から、生活感溢れる短歌が続々届きます!

写真は善光寺御開帳2015年(上)と善光寺雲上殿納骨堂(下)

善光寺

善光寺

トルコの旅

中欧の旅(ドナウ川)

戦没者の墓ある前に訪ふ人の線香の煙絶ゆことのなし

「善光寺 御開帳 2」 (2022.6.7)

凍コロナ禍で一年延びる御開帳の回向柱に一時間の列

「善光寺 御開帳 1」 (2022.6.7)

挿し木するハイビスカスの育ちきて花の一輪部屋を潤す

「立春 2」 (2022.2.22)

凍みる道転ばぬようにのろのろと身振り気にせず亀這ふごとし

「立春 1」 (2022.2.22)

ちちろ鳴く夫の面影慕ひつつ秋の夜長に遺稿集読む

「風テラス 2」 (2021.10.18)

見渡せる飯縄山の懐に新装なれる美術館映ゆ

「風テラス 1」 (2021.10.18)

戦のため遅れて来たるアフガンの二人の涙胸に堪ふる

「東京オリパラ 2」 (2021.9.20)

コロナ禍で鬱の溜まるもオリパラに感動しきり一歩踏み出す

「東京オリパラ 1」 (2021.9.20)

心頭を滅却するがの蝉しぐれ声の聞かずは侘しきものよ

「蝉しぐれ 2」 (2021.8.18)

寺庭にまだ温かきかの落ち蝉の羽根艶艶と生あるごとし

「蝉しぐれ 1」 (2021.8.18)

老ひくれば白内障を避けられず視力戻りて医学に感謝

「白内障手術 2」 (2021.7.15)

こんなにも赤かったのかハイビスカス眼帯はずす六月の朝

「白内障手術 1」 (2021.7.15)

ちちろ鳴く夫の面影慕ひつつ秋の夜長に遺稿集読む

「風テラス 2」 (2021.10.18)

見渡せる飯縄山の懐に新装なれる美術館映ゆ

「風テラス 1」 (2021.10.18)

戦のため遅れて来たるアフガンの二人の涙胸に堪ふる

「東京オリパラ 2」 (2021.9.20)

コロナ禍で鬱の溜まるもオリパラに感動しきり一歩踏み出す

「東京オリパラ 1」 (2021.9.20)

心頭を滅却するがの蝉しぐれ声の聞かずは侘しきものよ

「蝉しぐれ 2」 (2021.8.18)

寺庭にまだ温かきかの落ち蝉の羽根艶艶と生あるごとし

「蝉しぐれ 1」 (2021.8.18)

老ひくれば白内障を避けられず視力戻りて医学に感謝

「白内障手術 2」 (2021.7.15)

こんなにも赤かったのかハイビスカス眼帯はずす六月の朝

「白内障手術 1」 (2021.7.15)

輸血あり点滴もあり絶へ間なく眺むは雲の変化楽しむ

「緊急入院 2」 (2021.6.12)

早速に輸血の声が遠くにて聞こえて我は俎板の鯉

「緊急入院 1」 (2021.6.12)

本に識る一瞬一生わが胸の底に漲る弾める四月

「弾む春 2」 (2021.4.23)

真蠢ける津津浦浦の桜花優賞受くる璃花子氏を賞づ

「弾む春 1」 (2021.4.19)

大樹なるヒマラヤ杉の影もなく甦りくる青春の日ぞ

「開館を待つ長野県立美術館 2」 (2021.3.22)

真新しテラスに眺む善光寺四月十日の開館を待つ

「開館を待つ長野県立美術館 1」 (2021.3.12)

寒鯉の鯉濃好む亡き母の笑顔が浮かぶ大寒入り

「中村昭男氏逝く 2」 (2021.2.28)

山居にて侘・寂を詠む中村氏楓樹芽吹く森に眠らむ

「中村昭男氏逝く 1」 (2021.2.20)

鳩の影一羽も見へず寺の庭屋根の額縁鳩を数ふる

「初詣で 2」 (2021.1.30)

善光寺に御判頂戴厳かに頭に浮かびくる亡き夫の貌

「初詣で 1」 (2021.1.14)

氏の遺志をつぐ絵本「カカ・ムラド」命亡ぶも魂永遠に

「三年連用日記 2」 (2020.12.24)

我が年齢を思ひて選ぶ日記帳三年連用薔薇の表紙絵

「三年連用日記 1」 (2020.12.9)

賓頭盧は人生模様を写し出しのっぺらぼうが入口に座す

「秋晴れの善光寺 2」 (2020.11.21)

友垣と老いを語りつ善光寺鳩ぽっぽの碑見つけて燥ぐ

「秋晴れの善光寺 1」 (2020.11.16)

団栗のぱらぱら落つる山の道宮澤賢治の童話巡らす

「高原に遊ぶ 2」 (2020.10.21)

遥かにも戸隠山を望む野にいにしへ偲ぶ女人結界

「高原に遊ぶ 1」 (2020.10.14)

数年の健康づくり体操に友垣増へて健やかなりし

「高齢者体操 2」 (2020.9.23)

脳トレや輪投げカルタと多種ありて三密守り時間を忘る

「高齢者体操 1」 (2020.9.14)

被曝せるピアノ奏でる炎天に八月六日の広島訴ふ

「葉月 2」 (2020.8.24)

アマビエを作るも高き鼻折れてムンクのごとき大き口開く

「葉月 1」 (2020.8.15)

山荘に集ひて食すアカシアの天麩羅囲む景は遥かに

「春蝉 2」 (2020.7.28)

一山を占むがに鳴ける春蝉の奏でる声に和みゆくなり

「春蝉 1」 (2020.7.13)

二か月間休校の子らの登校の噪ぐ姿に目が潤みくる

「春の移ろひ 2」 (2020.6.20)

鶯と郭公啼ける朝ぼらけ季の移ろひを知る皐月尽

「春の移ろひ 1」 (2020.6.9)

街路樹のマロニエ芽吹く春の風人影まばら人の懐かし

「行く春 2」 (2020.5.31)

行く春を惜しむがに落つ沙羅の花拾ふ掌花びらの舞ふ

「行く春 1」 (2020.5.19)

花吹雪浴びつつ寺の歌碑めぐり歌に酔ひつつ花に酔ひつつ

「花に和む 2」 (2020.4.27)

霞たつ納骨堂を見遣りつつ散る花のもと亡夫を偲ぶ

「花に和む 1」 (2020.4.17)

春一番コロナウイルス全国に撒き散らしゆき春は遠退く

「新型コロナウイルス 2」 (2020.3.26)

明日にはもしや我が身と外出にマスク覆ひし顔一面に

「新型コロナウイルス 1」 (2020.3.16)

商いが成立したるか露店前大熊手囲み手締め響けり

「初恵比須 2」 (2020.2.20)

種銭を倍返し行く西宮神社へいそぐ雪のなき道

「初恵比須 1」 (2020.2.10)

遠く鳴る除夜の鐘聞く去年今年我迎ふるは七度目の干支

「睦月 1」 (2020.1.10)

颱風に無口になれる老夫婦手を繋ぎ合ひ仮の住処に

「師走 2」 (2019.12.21)

葉を落とす高き欅の隙間より今朝くっきりと槍ヶ岳見ゆ

「師走 1」 (2019.12.7)

改築の美術館にはクレーン車の唸る轟音静を破りき

「東山魁夷 2」 (2019.11.21)

改装の東山魁夷の展覧会 導く池に黄葉の浮かぶ

「東山魁夷 1」 (2019.11.7)

荏胡麻にも背骨があるを教はるる我の背骨をすっと伸ばす

「鬼無里 2」 (2019.10.21)

ロマン継ぐ鬼無里の村の鬼女紅葉墓の小さく寺隅に座す

「鬼無里 1」 (2019.10.11)

朝顔の浴衣に噪ぐ子ら二人巣立ちて早や幾年月ぞ

「葉月 2」 (2019.9.8)

朝顔の浴衣に噪ぐ子ら二人巣立ちて早や幾年月ぞ

「葉月 1」 (2019.9.8)

釈迦如来蓮華に座すは浄土への導きあるか温かく笑む

「蓮の季 2」 (2019.8.20)

仮の世の有り様見せて蓮池は若葉の陰に枯れ葉漂ふ

「蓮の季 1」 (2019.8.10)

富士に似る遠く眺むる高社山幼きシンボル今も変はらず

「故郷 2」 (2019.7.15)

故郷の駅に降り立ち見回せば我ひとりにて無人駅なり

「故郷 1」 (2019.7.5)

薫風に雛罌粟嫋やかに揺るるなか蝶の遊べる楽園なりしか

「友癒えよ 2」 (2019.6.15)

咲き競ふ白薔薇よりも清らかなる病の友よ早く癒えよや

「友癒えよ 1」 (2019.6.5)

言論のより確かなる時代きて平和を願ふ憲法記念日

「平成から令和へ 2」 (2019.5.15)

令和元年五月一日の新聞を読みつつ聞こゆ鶯の声

「平成から令和へ 1」 (2019.5.8)

秀吉とねねの過ごせる住処かあり古に馳せひとときを憩ふ

「京に遊ぶ 2」 (2019.4.15)

車窓より連なり霞む比叡山巡りきたれる夫五十回忌

「京に遊ぶ 1」 (2019.4.8)

朝な夕な見遣る飯綱やうやくに雪まだらなり春の兆しよ

「飯綱山 2」 (2019.3.15)

夫逝きて早や半世紀迎ふるも今なほ凛と飯綱山ぞ

「飯綱山 1」 (2019.3.5)

西宮神社の神は恵比須なり仲良く座せる七福神も

「初恵比須 2」 (2019.2.15)

早朝に花火上がりて初恵比須娘と連れ立ちて神社に向かう

「初恵比須 1」 (2019.2.4)

満開のさざん花ひとつ零れ落ち薄らつもる雪に映えたり

「新年を迎えて 2」 (2019.1.20)

元日の天を裂くごと木遣歌きりりと鉢巻き厳かなれる

「新年を迎えて 1」 (2019.1.9)

人波に高く漂う大熊手よ不況の風を吹きとばしゆけ

「酉の市 2」 (2018.12.15)

大熊手の取り引きなるか手締めする音の高しよ二の酉の市

「酉の市 1」 (2018.12.4)

奥社へは隋神門より急坂に胸突き八丁にて上る

「戸隠逍遥 2」 (2018.11.15)

霊山を眺める場所に碑のありて思いを馳せる女人結界

「戸隠逍遥 1」 (2018.11.4)

天高く岩松院の道に沿う黄金色する稲穂波打つ

「小布施漫遊 2」 (2018.10.15)

毬栗(いがくり)の一つ拾いて懐にひと日穏やか小布施漫遊

「小布施漫遊 1」 (2018.10.4)

東京駅に「生誕百年ちひろ展」淡いパステルの絵に和らぎぬ

「御上りさん 2」 (2018.9.16)

訪うたびに様変わりする街並に右往左往の御上りさんは

「御上りさん 1」 (2018.9.3)

信州の雷電に継ぐ大関と期待膨るる御嶽海なり

「初優勝の御嶽海 2」 (2018.8.15)

新聞を食み出すごとく御嶽海の初優勝の賜杯輝く

「初優勝の御嶽海 1」 (2018.8.4)

若き日に訪いし摩文仁の蘇る真っ青な海白い砂浜

「水無月 2」 (2018.7.15)

断崖に巣くう隼の雛を見て巣立ち見守る人ら賑わう

「水無月 1」 (2018.7.2)

巨岩よりけなげに覗くイワカガミ小さい花に癒されゆきぬ

「軽井沢周遊 2」 (2018.6.15)

岩間より糸のごとくに幾筋の流れ落ちくる白糸の滝

「軽井沢周遊 1」 (2018.6.2)

高層のあべのハルカス三百メートル六甲生駒ははるかに霞む

「造幣局の通り抜け 2」 (2018.5.15)

夜桜の造幣局の通り抜け花に埋まり人に埋まるる

「造幣局の通り抜け 1」 (2018.5.4)

くねくねと曲がる坂道桜坂木の芽起こしの日射し和らぐ

「彼岸会 2」 (2018.4.15)

鶯の声も連れきて亡夫の前 悲喜こもごもを語りて安堵

「彼岸会 1」 (2018.4.5)

五輪旗は色の違える輪をつなぎ輪になる世界ここから始む

「平昌冬季五輪 2」 (2018.3.15)

宙を跳び地上を滑る選手らの勝敗超えて血が騒ぎたる

「平昌冬季五輪 1」 (2018.3.8)

冬日射す真白く高き槍ヶ岳北アルプスの貌として立つ

「浅間温泉へ 2」 (2018.2.15)

幾つかの露天の風呂を巡りたる浅間おろしの突き刺す寒さ

「浅間温泉へ 1」 (2018.2.1)

終活と言いつつ求む福袋開ける楽しみ今もときめく

「行く年くる年 2」 (2018.1.15)

三十日蕎麦食べて寿ぐ健やかを除夜の鐘聞く厳かに聞く

「行く年くる年 1」 (2018.1.8)

ホテルよりレインボーブリッジ眼前に青く輝き都会の一夜

「世田谷の文学館へ 2」 (2017.12.15)

生前の澁澤龍彦を語りたる四谷シモンは人形作家

「世田谷の文学館へ 1」 (2017.12.1)

山麓に湧水ありて旅人は塩の道なる遥か偲ぶや

「姫川源流へ 2」 (2017.11.15)

姫川の源流となる湿原に湧き水もとめ赤蜻蛉とぶ

「姫川源流へ 1」 (2017.11.1)

山道に蝉の亡骸ころがりぬ蝉の一生われの一生

「秋のおとずれ 2」 (2017.10.15)

野辺めぐり金木犀の香を纏いワインを開ける音に華やぐ

「秋のおとずれ 1」 (2017.10.1)

頂点を極める花咲徳栄の深紅の優勝旗甲子園回る

「夏の甲子園 2」 (2017.9.15)

胸を張り若さ漲る球児らの足音たかく夏の甲子園

「夏の甲子園 1」 (2017.9.1)

沢に咲く戸隠升麻の白き穂が風送りきて霊気漂う

「戸隠奥社へ 2」 (2017.8.15)

茅葺きの随神門の屋根の上幾世越えしか雑木茂る

「戸隠奥社へ 1」 (2017.8.2)

湯の浜の浜辺で貝を拾いつつ娘と二人連れ水無月の朝

「加茂くらげ水族館へ 2」 (2017.7.15)

山形に世界一とも呼ばれたる水母水族館へ足運び行く

「加茂くらげ水族館へ 1」 (2017.7.3)

善光寺へ続く小径にに躑躅咲き回り道してひととき憩う

「信濃美術館 2」 (2017.6.15)

幾たびも足を運べる信濃美術館 改修聞けば早や半世紀

「信濃美術館 1」 (2017.6.2)

宴過ぎ鎮まり返る城山に手持ち無沙汰のぼんぼり揺るる

「五月晴れ 2」 (2017.5.15)

柔らかな日射し浴びつつ善光寺への参道のぼる今日五月晴れ

「五月晴れ 1」 (2017.5.1)

故郷にいまだ残れる壕ありて怯える日々の蘇りくる/p>

「オスプレイ飛来 2」 (2017.4.14)

静かなる長野の空に轟音を響かせ低くオスプレイ飛ぶ

「オスプレイ飛来 1」 (2017.4.3)

二、三日見ぬ間に薔薇の赤き芽が膨らみ春はしかと近付く

「淡雪 2」 (2017.3.15)

淡雪が薄ら椿の花被いくちびるのごと紅を覗かす

「淡雪 1」 (2017.3.2)

ベランダによく来る鳩の姿なくいずこにいるや大雪のなか

「大雪 2」 (2017.2.15)

一夜にて膝上までの新雪に今朝の景色は墨絵のごとし

「大雪 1」 (2017.2.2)

威勢よき栄太鼓が高鳴りて足止めて聞く大き人の輪

「正月点描 2」 (2017.1.15)

善光寺の石畳踏み手を合わす拝める願い凡が一番

「正月点描 1」 (2017.1.5)

大輪の華の競演闇焦がし際立つ赤に真田丸浮く

「長野えびす講花火 2」 (2016.12.15)

晩秋の夜空彩る大輪はこれぞ花火と陶酔したり

「長野えびす講花火 1」 (2016.12.1)

錦木に混じりて松の際立つも一期に散りゆく落ち葉のロマン

「いく秋 2」 (2016.11.15)

道の辺に賑わいて咲く野紺菊 心の襞を潤しくるる

「いく秋 1」 (2016.11.1)

フィナーレの静かに消える聖火台安堵の旗が大きく揺れる

「リオパラリンピック 2」 (2016.10.15)

車椅子に乗りて聖火を高く上げ選手に拍手喝采の湧く

「リオパラリンピック 1」 (2016.10.1)

庭先で採れたと南瓜じゃが芋を持ちてくる娘(こ)の笑顔のまぶし

「しのび寄る秋 2」 (2016.9.15)

終日を鳴き続けゆく蝉の声 蝉の一生 われの一生

「しのび寄る秋 1」 (2016.9.1)

お台場に自由の女神が建ちていてニューヨークなど脳裡をめぐる

「お台場 2」 (2016.8.15)

その昔ここより砲弾飛び交うか緑が包む砲台の跡

「お台場 1」 (2016.8.1)

亡き兄と蚊帳に放せるホタル追い遊びし昭和遠くになりぬ

「ホタル狩り 2」 (2016.7.19)

わくわくと幼に還りホタル狩り 子らに交じりて闇を急げり

「ホタル狩り 1」 (2016.7.1)

さざ波のごとく揺れる白藤のトンネル抜ければ真っ青な空

「足利の大藤 2」 (2016.6.15)

足利の六百畳なる大藤は空を隠して花房揺るる

「足利の大藤 1」 (2016.6.1)

雪解けの水嵩の増す山峡に黄の耀える山吹の咲く

「春爛漫 2」 (2016.5.15)

祈るがに掌合わす白木蓮ひと日を咲きて散りぎわ見事

「春爛漫 1」 (2016.5.1)

寄り道の湯島天神娘と訪えば香り残して散りゆく梅花

「レオナルドダビンチ展 2」 (2016.4.15)

ダビンチの「糸巻きの聖母」の初来日 再び巡り会えて嬉しき

「レオナルドダビンチ展 1」 (2016.4.1)

ふるさとの飯山映る雪景色に脳裏をめぐる茅葺きの家

「春の気配 2」 (2016.3.15)

残照にくっきり映える槍ヶ岳荘厳なりて襟を正せり

「春の気配 1」 (2016.3.2)

雪被くベランダ越しの菅平 朝日に映えて光を放つ

「大寒 2」 (2016.2.15)

大寒の夜に吹雪が戸をたたき影映るるは雪女めく

「大寒 1」 (2016.2.1)

初詣で善光寺への参道は行き交う人の笑みの花咲く

「新春を詠む 2」 (2016.1.15)

山の端を刻刻染めて初日の出神秘を覚ゆ元旦の朝

「新春を詠む 1」 (2016.1.4)

「鳩ぽっぽ」作詞の歌碑が浅草寺に滝廉太郎と初めて知りぬ

「東京ぶらり旅 2」 (2015.12.15)

画廊にて息子(こ)の発行の原画展 絵に魅せられるフルーツパフェ

「東京ぶらり旅 1」 (2015.12.1)

わが家にも柿の木ありて幼な日に競いて上る故郷遠し

「晩夏 2」 (2015.11.15)

式部の実紫耀う光にてあるを知りたる公園の隅

「晩夏 1」 (2015.11.1)

生きている証しの憂い掠うがに野分きの風が吹き渡りゆく

「戸隠の森 2」 (2015.10.15)

連山を映して澄める鏡池黙して座せば無心になりぬ

「戸隠の森 1」 (2015.10.1)

稲田には雀除けなる網張られ案山子も見えてふるさとを恋う

「秋風 2」 (2015.9.15)

初あきの夜にひんやり秋雨が残暑覚えず猛暑過ぎたり

「秋風 1」 (2015.9.2)

戸隠の山をくだりて山みれば黒雲湧きて雨の降るらし

「戸隠奥社へ 2」 (2015.8.25)

本殿の奥に巨大な岩ありて天の岩戸の神話浮かべり

「戸隠奥社へ 1」 (2015.8.1)

越水の原に結界の石ありて女人らを偲ぶ幾世越せども

「森の美術館 2」 (2015.7.15)

束の間の梅雨晴れ急ぎ戸隠へ開館したる美術館を訪う

「森の美術館 1」 (2015.7.2)

山海の恵み豊かな近江町市場は盛り列をなしたる

「金沢散策 2」 (2015.6.15)

金沢で知人の遺物を展示する泉鏡花の館を訪ねる

「金沢散策 1」 (2015.6.2)

鎮もれるライトアップの善光寺 荘厳なれば浄土の浮かぶ

「善光寺御開帳 2」 (2015.5.14)

時を超え中日庭儀の大法要あの世この世が回りてきたりぬ

「善光寺御開帳 1」 (2015.5.2)

岐阜商に四対一と負けたるも松商ナインに拍手は止まず

「春の甲子園球場 2」 (2015.4.15)

初めての甲子園球場に息をのむ 広いなあと声を発して

「春の甲子園球場 1」 (2015.4.2)

鐘楼の春を告げくる鐘の音が霞のそらに響きわたれり

「善光寺界隈 2」 (2015.3.15)

護摩堂と五色のひもが結ばれる建てしばかりの柱は真っ白

「善光寺界隈 1」 (2015.3.2)

日脚伸びぽかぽか陽気の昼下がり蠅のろのろと床這いめぐる

「春の訪れ 2」 (2015.2.13)

裸木を透かして遥かに槍ヶ岳白刃のごとく煌めきて見ゆ

「春の訪れ 1」 (2015.2.3)

身の生(う)くる幸いあるを第九にてしみじみと聴く気持ち新たに

「第九の響き 2」 (2015.1.15)

年の瀬の慌ただしさを拭うがの心に沁みる第九の響き

「第九の響き 1」 (2015.1.5)

山門をくぐれば石の灯ろうが軒並み倒れ目を覆いたし

「長野北部地震 2」 (2014.12.15)

鐘楼の土台がくずるる善光寺 作業の人の吐く息白し

「長野北部地震 1」 (2014.12.2)

興福寺の阿修羅の像に拝みいて邪心を祓い清みてゆきたり

「京都御所と正倉院展 2」 (2014.11.15)

朝九時に会場に着くも長き列 一時間待ちと正倉院展

「京都御所と正倉院展 1」 (2014.11.5)

たちまちに尾花の波がざわめきて風吹きすさぶ戸隠おろし

「戸隠中社へ 2」 (2014.10.15)

一もとの野菊の咲ける女人堂 戸隠中社の隅に鎮まる

「戸隠中社へ 1」 (2014.10.2)

夏草の繁れるなかに萩の花見え隠れして秋を思わす

「初秋の戸隠牧場 2」 (2014.9.15)

戸隠の牧場を訪えばひひ〜んといななく声に迎えられるる

「初秋の戸隠牧場 1」 (2014.9.2)

役者など集まる場所と伝え聞く下北沢は劇場多し

「新世紀モンスター展 2」 (2014.8.16)

涌き上がる夢を描くかS君の自由自在に筆の羽ばたく

「新世紀モンスター展 1」 (2014.8.2)

箱根路は山また山の重なりて幾山越えて渓わたり行く

「富士山めぐり 2」 (2014.7.24)

一片の雲なき富士を目の前に祈るがごとく娘と仰ぎ見る

「富士山めぐり 1」 (2014.7.4)

後ろ髪引かるる思いで場を去るも思い巡らす巢立ちせる雛

「隼 2」 (2014.6.15)

巢立ちたる雛を見遣るか親鳥は頭上に大きく弧を描き舞う

「隼 1」 (2014.6.2)

瑠璃色の羽を広げて陽を浴びる孔雀ゆるりと我もゆるりと

「春爛漫2」 (2014.5.15)

やわらかに春の雨降るなかに啼くつねにもさわぐ鶯の声

「春爛漫1」 (2014.5.1)

くねくねと曲がる坂道下りきて今年も買いぬ桜団子を

「墓参り 2」 (2014.4.15)

つつがなく四十余年を過ごしきて守りくれしの夫を拝めり

「墓参り 1」 (2014.4.3)

一夜明け腰まで埋む雪ならば外出控えカップラーメン

「大雪 2」 (2014.3.15)

今日よりは雨水というもつるはしの雪を砕ける音高くして

「大雪 1」 (2014.3.4)

武蔵野の多摩のホスピス訪いし日の稜線浮かぶ夕茜雲

「小林登美枝師10回忌 2」 (2014.2.18)

病床に紅ひき笑める登美枝師の面影めぐる今日十回忌

「小林登美枝師10回忌 1」 (2014.2.6)

善光寺に詣でる人の賑わいて拝殿までは分刻みなり

「新春を詠む 2」 (2014.1.14)

うっすらと薄化粧する寒椿 冬木に深紅の花をのぞかす

「新春を詠む 1」 (2014.1.6)

御苑には清正井とう井戸ありてパワー受けりと列に並びぬ

「明治神宮 2」 (2013.12.16)

小春日に明治神宮を訪いたれば吉日なるか人の溢るる

「明治神宮 1」 (2013.12.1)

戸隠の天戸岩屋戸の神話など思いて遊ぶ秋の一日(ひとひ)よ

「戸隠散策 2」 (2013.11.12)

たちまちに露に包まれ戸隠の険山隠せるしのびよる秋

「戸隠散策 1」 (2013.11.1)

木更津の宿より海をながむれば白波たちて幾隻の船

「スカイツリー巡り 2」 (2013.10.14)

複雑な幾何学的な鉄脚のスカイツリーは怪物に見ゆ

「スカイツリー巡り 1」 (2013.10.1)

山風を受けて揺らめく蕎麦の花見渡す限り白き波打つ

「山の風 2」 (2013.9.16)

戸隠の植物園に降りたるはひとりのみにて心細かり

「山の風 1」 (2013.9.1)

戸隠の鬼の伝説数ありて 鬼棲めるがの暗き参道

「戸隠奥社詣で 2」 (2013.8.12)

真向いに戸隠連峰見渡せる女人結界の碑を通り過ぐ

「戸隠奥社詣で 1」 (2013.8.1)

小天狗の森のコースを巡りきて熊出没と聞きて慄く

「飯綱高原に遊ぶ 2」 (2013.7.9)

梅雨晴れの大座法師池に映りたる飯縄山は深く鎮もる来

「飯綱高原に遊ぶ 1」 (2013.7.1)

茂林寺の横を通れば伝えある文福茶釜の噺浮かび来

「薔薇 2」 (2013.6.17)

大輪のベルサイユという薔薇ありてパリを訪う日の宮殿を恋う

「薔薇 1」 (2013.6.4)

先頭を走る川内選手見え ひときわ高く声援の飛ぶ

「長野マラソン 2」 (2013.5.13)

走り寄る弟の手とハイタッチ雪の背を追う長野マラソン

「長野マラソン 1」 (2013.5.2)

大門に繋がる道のひろびろと椅子やテーブル客を待つがに

「善光寺散策 2」 (2013.4.15)

境内のせせらぎ音をたてる辺に春蘭咲きて故郷を恋う

「善光寺散策 1」 (2013.4.6)

啓蟄の声聞きたるか冬の蠅 ガラスの窓をのそのそと這う

「早春 2」 (2013.3.14)

物憂げな朧に映ることどもを春の嵐は連れ去りくれぬ

「早春 1」 (2013.3.7)

冬晴れのひと日布団を干したれば今宵は見むか薔薇色の夢

「大寒 2」 (2013.2.11)

公園の新雪鳴らし踏みゆけば木花の眩し大寒の朝

「大寒 1」 (2013.2.4)

山茶花に匂いなけれど薄らと雪積む紅に心奪わる

「正月三が日 2」 (2013.1.11)

銀嶺を赤く染めつつ初日の出 神神しさに頭の下がる

「正月三が日 1」 (2013.1.7)

黒煙を吐きつつ走るSLに若き日偲ぶ通学列車

「寸又峡と吊り橋 2」 (2012.12.17)

秘境なる寸又峡行くSLの車内で食べるふるさと弁当

「寸又峡と吊り橋 1」 (2012.12.3)

中庭の巨大な南瓜の彫刻に子等戯れてかくれんぼする

「草間彌生展 2」 (2012.11.15)

入り口の草間彌生のヤヨイちゃん 故郷にあり居場所見つくか

「草間彌生展 1」 (2012.11.2)

野良犬が先頭に立ち得得とガイドするがに遺跡をめぐる

「灼熱のトルコ 6」 (2012.10.18)

メルハバはトルコ語でいう今日は 覚えたてしの言葉飛び交う

「灼熱のトルコ 5」 (2012.10.2)

時を越え栄華の遺跡巡りつつオスマントルコの巨大を覚ゆ

「灼熱のトルコ 4」 (2012.9.14)

五十キロ奇岩の続くカッパドキア キリスト教の聖地の聞きぬ

「灼熱のトルコ 3」 (2012.9.3)

ホメロスの叙事に書かるる戦争の巨大な木馬に目を奪われり

「灼熱のトルコ 2」 (2012.8.14)

トルコにて七十六の誕生日 旅の仲間が祝いてくれぬ

「灼熱のトルコ 1」 (2012.8.4)

のんびりと甲羅干しする亀あると眺めるわれも亀のごときか

「地蔵菩薩 2」 (2012.7.13)

善光寺に地震(ちい)の松より作られし菩薩を知りて拝観したり

「地蔵菩薩 1」 (2012.7.3)

太陽が元に戻りて輝きを浴びて恵みの深きを知りぬ

「天体ショー 2」 (2012.6.17)

ひんやりと暗き風受け太陽の欠け始まりてショーの幕開く

「天体ショー 1」 (2012.6.2)

綿帽子かぶるがに咲く白木蓮 夕べ一樹に惹かれ刻過ぐ

「春爛漫 2」 (2012.5.14)

見えねどもひねもす啼ける鶯に解き放たれてひと日過ぎゆく

「春爛漫 1」 (2012.5.1)

本代の借金ばかり背負わされ幼子連れて婚家を追わる

「風よ吹け 2」 (2012.4.13)

さよならと言いたくないと握る手の夫の目かなしわれなお悲し

「風よ吹け 1」 (2012.4.1)

露なる梅の木肌の裂け目より 花を見つけし夫は足止む

「梅咲くころ 2」 (2012.3.14)

友よりの梅の花ある便り読み 夫身罷りし季の浮かぶなり

「梅咲くころ 1」 (2012.3.1)

乱舞する雪の妖精怪しかり われを招きぬ銀色の精

「冬の夜空 2」 (2012.2.18)

大寒の夜空にかがやくオリオン座 際立ち光るを亡夫と定む

「冬の夜空 1」 (2012.2.4)

初詣の帰路に買いくる濁り酒 わが手捻りのぐいのみに満つ

「新年を寿ぐ 2」 (2012.1.19)

脈脈と月日重ねて元旦の輝きを増す山の端見つむ

「新年を寿ぐ 1」 (2012.1.5)

形見なる母の作りし綿入れを初下ろしするわれ七十五

「冬の訪れ 2」 (2011.12.4)

落ち葉焚き焼き芋頬張る子ら見えず ここにもありし原発の影

「冬の訪れ 1」 (2011.12.4)

二十体の聖像ならぶカレル橋 安泰祈り像に触れたり

「中欧五カ国の旅 4」 (2011.11.15)

中世の名残り漂うプラハ城 わが視線射る尖塔五つ

「中欧五カ国の旅 3」 (2011.11.3)

ベルリンの壁もなくなり東西の往来激しトラックを見ゆ

「中欧五カ国の旅 2」 (2011.10.18)

すいすいとドイツとチェコの国境も検閲あるは遥か遥かに

「中欧五カ国の旅 1」 (2011.10.11)

ちりりんと風鈴鳴らす秋の風 鈍き頭に風穴を抜く

「夏の終わり 2」 (2011.9.30)

浅草のほおずき市に出会いたり売り声高く風に乗りくる

缶ビール一本空けて仏前で夫を迎うる今日は盂蘭盆

「夏の終わり 1」 (2011.9.22)

浅草のほおずき市に出会いたり売り声高く風に乗りくる

「東京スカイツリー 2」 (2011.8.31)

競い合い世界一とうスカイツリー霊呼びて哭く声聞こゆるか

「東京スカイツリー 1」 (2011.8.13)

線太き棟方志功の版画絵に般若おもわす像迫りくる

「名画に浸る 2」 (2011.7.27)

モネ描く「積み藁」の絵に導かれ足袋を繕う母浮かびくる

「名画に浸る 1」 (2011.7.15)

ゆうゆうと鴨の番が遊びたる明神池に贅のひととき

「上高地散策 3」 (2011.6.22)

上高地を10キロ歩き待ち受ける白骨の湯に解れゆきたり

「上高地散策 2」 (2011.6.15)

聳え立つ雪渓迫る穂高岳 河童橋にて目を見張るなり

「上高地散策 1」 (2011.6.8)

花を賞で小田原城を埋め尽くす笑顔かがやき声跳ね上がる

「箱根遊山 3」 (2011.5.26)

ほとばしる湧き水ありて掬えれば のどみにしみて身を貫けり

「箱根遊山 2」 (2011.5.11)

幾曲がりスイッチバックを重ねつつ箱根登山の列車に揺るる

「箱根遊山 1」 (2011.5.7)

何一つ予測だにせず襲いきし地震・津波と福島原発

「東北関東大震災 3」 (2011.4.26)

去年訪えし釜石港の無気味なるがれきの山に身の竦みたり

「東北関東大震災 2」 (2011.4.7)

おろおろとただおろおろと10日間 地震はわれを虜にしたり

「東北関東大震災 1」 (2011.4.1)

ちょうちょうと流れる水の軽き音 白波たてて春の声聞く

「春一番 3」 (2011.3.24)

目の前をのそりのそりとゆく猫の移りてくるか我ものそりと

「春一番 2」 (2011.3.14)

わが海馬をくすぐりすぎる春一番 心騒げる甘きささやき

「春一番 1」 (2011.3.7)

拍子木をたたく響きが大寒の夜のしじまに冴えゆきわたる

「大寒 3」 (2011.2.19)

母つくる半纏着ればぬくぬくと凍てし心をふんわり包む

「大寒 2」 (2011.2.9)

人みなが身の竦めおる大寒に凍土を突きてチューリップの芽

「大寒 1」 (2011.1.31)

覗くたび別の世界に引き込まれ目眩むがの不思議な鏡

「元日詠  3」 (2011.1.24)

御祓いを受ければ神が宿るがに髄まで穿ち初心にかえる

「元日詠  2」 (2011.1.13)

空洞に張らるる注連縄しめやかに気の漂える欅の大樹

「元日詠  1」 (2011.1.9)

焼き芋を両手で頬張る園児らの熱さこらえる手が踊りだす

「師走寸描 3」 (2010.12.27)

落葉掃く老いの背中に小春日が戯れ射せる師走のひと日

「師走寸描 2」 (2010.12.20)

かたことと機織る音の聞こゆがの母を連れくる木枯らしの夜

「師走寸描 1」 (2010.12.14)

並べうる器に蜻蛉とまれおり我関せずと日向ぽっこす

「益子の大陶器市 3」 (2010.12.8)

店前の五メートルの大狸化かされぬぞと財布を締めり

「益子の大陶器市 2」 (2010.11.17)

陶芸の郷といわるる益子には陶工たちの気迫が満ちる

「益子の大陶器市 1」 (2010.11.08)

目を凝らし石垣に見る光苔仏の照らす光にも見ゆ

「千畳敷カール 3」 (2010.11.03)

はるなつは花の苑にて盛るるも千畳敷は草紅葉なり

「千畳敷カール 2」 (2010.10.21)

たちまちに山覆われて目の前に怒涛のごとく霧の迫りき

「千畳敷カール 1」 (2010.10.10)

久々の雨に打たれる向日葵の息づくさまに我も息づく

「猛暑 2」 (2010.9.28)

ひぐらしと鈴虫鳴ける夕べにて季の移ろいを幽かに覚ゆ

「猛暑 1」 (2010.9.14)

雷鳴の轟く窓辺に立ちおれば背を貫きて閃光はしる

「夏を拾う 4」 (2010.9.6)

野辺に咲く名もある花もなき花も賞でゆく人の穏やかに見ゆ

「夏を拾う 3」 (2010.8.24)

雑草の茂れるままの廃屋に天を仰ぎて向日葵の立つ

「夏を拾う 2」 (2010.8.9)

雷鳴の閃光はしる窓にいて悪魔の駆ける天を眺めり

「夏を拾う」 (2010.7.28)

エジプトの絵模様踊るスカーフを透き過ぎゆきぬ葉桜の風

「エジプトに馳せる 2」 (2010.7.15)

ピラミッド謎多ければ惹かれふく馳せる心は早やエジプトへ

「エジプトに馳せる 1」 (2010.6.19)

境内の池面に浮かぶ花筏鯉も見るらし筏揺らす

「初夏に感じる 2」 (2010.6.5)

親が子に譲るを倣い名付けしとゆずり葉という教えられたり

「初夏に感じる 1」 (2010.5.17)

完成は百年後とうガウディの見上げる塔に人影を見ゆ

「スペインの旅 4」 (2010.5.7)

ゴヤ描く「裸のマハ」の前に立ち去り難かりしプラド美術館

「スペインの旅 3」 (2010.5.3)

名画なるベラスケスの絵に立ちん棒駆け足で過ぐプラド美術館

「スペインの旅 2」 (2010.4.23)

スペインは世界遺産の豊庫にて古に馳す宮殿巡り

「スペインの旅 1」 (2010.4.15)

のうのうと足を投げだし野良猫の欠伸に注ぐ日射しのやわし

「しなのの春 2」 (2010.4.7)

春日浴び親子で飛ばす紙飛行機広場に高く声の広がる

「しなのの春 1」 (2010.4.7)

連翹の黄があまりにまぶしくて惑えるわれをさらに惑わす

「春の兆し 2」 (2010.3.19)

雪解けの水が川幅膨らませ目を皿にして渦巻きの過ぐ

「春の兆し 1」 (2010.3.9)

公園に遊ぶは鳩と鴉のみ自由自在に闊歩しており

「立春のころ 2」 (2010.2.19)

立春と聞けばからだが軽くなり日脚も延びて街に向かいぬ

「立春のころ 1」 (2010.2.12)

逆転の笑みのこぼるる浅田真央十九歳の貌のぞかせて

「氷上の舞 2」 (2010.1.31)

製氷のあとに滑れる一本の白き筋あとリンクに光る

「氷上の舞 1」 (2010.1.29)

おみくじが枝垂るるほど結ばれて松の緑に白き花満つ

「元日詠 2」 (2010.1.13)

除夜の鐘遠くに聞きて目覚めれば去年は今年の時を刻めり

「元日詠 1」 (2010.1.10)

華やげる花火のあとの静まりに儚さつのる靴の音聞く

「秋深く 3」 (2009.12.31)

木枯しの吹くにまかせて散る紅葉絵模様のごと地面彩る

「秋深く 2」 (2009.12.27)

夕映えの空に吸い込む童謡の声に連なる柿の木の家

「秋深く 1」 (2009.12.8)

村里のおちこち柿の実たわわ生りふるさと恋し父はは恋し

「虫歌観音 3」 (2009.11.20)

幾年も経しか目鼻の定まらぬ笑める石仏苔生しており

「虫歌観音 2」 (2009.11.12)

信州の松代出身和田英の製糸工女の歩みを覚ゆ

「虫歌観音 1」 (2009.11.6)

森林の雨を集めて十和田湖は水を湛えて奥入瀬くだる

番外編「奥入瀬渓谷 2」 (2009.11.3)

雨上り奥入瀬渓谷歩きなば不意に栃の実頭を打ちし

番外編「奥入瀬渓谷 1」 (2009.10.30)

海鳴りのうねりも聞こゆ枕辺に潮の香りに包まれて寝る

番外編「竜飛岬 2」 (2009.10.24)

函館へ連絡船で渡りたる夢多き日の青春過る

番外編「竜飛岬 1」 (2009.10.22)

世に連れてさま変わりする秋祭り花火ひととき境内賑わす

「秋祭り 2」 (2009.10.20)

肩車される幼のもみじ手が父の背中でぽんぽん跳ねる

「秋祭り 1」 (2009.10.15)

寂れたる町は一夜に膨らみて人人人に埋れ尽くされり

「風の盆 3」 (2009.10.5)

哀調を帯びる越中おわら節風に流るる声の侘しも

「風の盆 2」 (2009.10.1)

坂の町八尾は九月一日を豊作祈る風の盆とう

「風の盆 1」 (2009.9.28)

北上川白波たてて流るるを車窓にながめ花巻へ向く

番外編 北紀行「中尊寺にて 3」 (2009.9.25)

高原のすすきの原を分け入れば女人結界の石碑のありて

「秋の気配 2」 (2009.9.10)

いつの間にセミの声絶えこおろぎの音色に秋の気配漂う

「秋の気配 1」 (2009.9.8)

五十万余の魂眠る高野山 生の証を墓石が語る

磨り減りし丸き石段登りつつ苔生す石に往事を偲ぶ

番外編 北紀行「中尊寺にて 2」 (2009.8.28)

五十万余の魂眠る高野山 生の証を墓石が語る

うす暗き堂塔覆う松杉に霊のおるらし重き風吹く

番外編 北紀行「中尊寺にて 1」 (2009.8.26)

五十万余の魂眠る高野山 生の証を墓石が語る

「ことばなき願い」 (2009.8.19)

上弦の月くっきりと祭りの夜 鉢巻法被が奏でる平和

「しなののいのり」 (2009.8.15)

諍いなどなき世を望み散策す青葉まぶしみ平和を覚ゆ

「なつのさかり」 (2009.8.11)

一山を占めるがごとく春蝉は尽きるを知らず鳴くを競えり

「しなののなつ 3」 (2009.8.7)

太陽と月と地球の織りなせる天体シヨウに言葉を絶す

「日食に立つ」 (2009.8.2)
「しなののなつ 2」 (2009.7.23)
「しなののなつ 1」 (2009.7.16)
番外編「みちのくの旅」 (2009.7.7)
「薔薇 2」(2009.7.1)
「聖山(ひじりやま)高原」(2009.6.28)
「薔薇 1」(2009.6.22)
「五月の頃」(2009.6.14)
「沖縄」(短歌新潮賞受賞作)より(2009.6.16)
「善光寺御開帳」(2009.6.14)
■杉田小百合 sayuri sugita

長野県飯山市生まれ。児童文学、女性史を学ぶ。短歌新潮同人。著書に「なくなったきょうかしょ」(ポプラ社)、「たっちゃんのたからもの」(あすなろ書房)。

短歌めくり集「しなののうた」