マーク詩集「跳ぶシーラカンス」

跳ぶシーラカンス 中花藻群三

何年たったか
シーラカンス
百ポンドの賞金で釣りあげられ
剥製にされて大英博物館の地下で
湿気にふやけていたな
鍵のかたちをしたシーラカンスの口
でも
重い扉は開かず
海のうねり
かいま見た新世界の記憶に熱っぽくなりながら
腐敗にたえていたか

何年たったか
黒い森は
黄色い星をつけた人間たちでいっぱいだ
黒い森は動きだし
かたまりあって流れていく
星の人々のうえにかぶさり続けた
森が切れて
ビール麦の乾いた芒(のぎ)が
上昇気流にのって
あふれているなかを
のろのろ追いたてられのめりこんでいった
星の人のなかに
泥にうずもれた踝に
勝利のイニシアルを刻みこんだ
少女がいて
よく肥えた腕がまぶしく光っていたな

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花藻群三写真
■花藻群三 gunzou hanamo

澁澤龍彦を研究する書誌学者
著書に
詩集「自由射手」、「龍神淵の少年」
「跳ぶシーラカンス」ほか
本名:杉田總(すぎたさとし)
昭和四十五年 没