マーク詩集「自由射手」

ノオト・現在時制の恐怖花藻群三


僕の向こう側には時間が流れていた
僕がいつもなぜまわしている時間とはちがつて
その速さは定めることができなかつたが
のびちじみするクラゲとなつて流れている。


僕が入つていくと
こわばり変色してしまうじ時間もあつた
その色の変わり具合はゆるやかで みつめている僕の方で吐気がしてくる位だ
今でもその吐気がはじまるまえに僕をおそつたまつ白な時間のくずれはじめている縁のささくれだつた断面を思い出すことができる。


僕は住みなれた時間からはい出てたちあがることにした
僕はすつかりこわばつて雨のしみこむことのないやせた軀をゆるがせた時
白けた時間の残骸に腰まで埋りこんで小さな根さえ伸ばしていたのに気がついた
時間はその広がる先がみえない位にそりかえつていたから
僕は一人植物の形をとつて腐敗していた。


僕らが抱きあうと急激に時間が流れはじめた
時間は僕のわきの下 つぶれた胸からはみでるようにふくれあがり
僕らはとりのこされた
動作がつづいたが未来はみえて来なかつた
僕らはかわききつて
動作をやめみつめあつた
すると時間は目の中にふたたびまいもどつてうずくまつているではないか
ぼくらは再び動作に入つていこうとしたが
笑いがこみあげてき
はなれ
あおむいていた


僕は発狂するだろう
現実との接触を失い
さびてささくれだつた時間から剥離して

全ての時間が死滅するだろう沼沢地の奥へとのめりこんでいくだろう
僕は小文字の存在となり
もう決して大文字たちが作つていた世界を思い出すことはない 名附けられ
分類され
すえつけられたものたちは
大文字を冠として立つているが
僕は常に横たわり
水平に流れ出そうとしてはおしとどめられてしまうあのたよりない小文字の世界から出ることができない

こわい
こわい
時間がこわい

花藻群三写真
■花藻群三 gunzou hanamo

澁澤龍彦を研究する書誌学者
著書に
詩集「自由射手」、「龍神淵の少年」
「跳ぶシーラカンス」ほか
本名:杉田總(すぎたさとし)
昭和四十五年 没