童話
思い出インクシーラカンス堂
後編
そしてあなたには 店主が続けようとするところを 私はまくしたててさえぎった
あなたに何が分かる?
次第に高揚し何を言ったのか覚えていない
ただ一言 一番
聞きたくない言葉を除いては
それとも私にはもう書く思い出なんてないとでも言い
たいの?
自分の声が矢のように胸に刺さった
しかし 店主は動じないどころか穏
やかだった
そしてどこからか分厚いノートを取りだしてきて手渡してくれた
そこには見慣れた字が綴られていた 私の思い出が溢れていた
私は今 満ち足りている
手元にあるのは 三百円のインクと帰り道に買った百円の
ノートだ
まず今日のことを書こう
私の思い出は風に乗ってあの店に辿り着いていた
涙を堪えてページを繰った
このノートに続けて書けますよ
そう店主はいって
くれた
私は読むうちに気付いていた
魔法のインクとは何なのか?
そしてノート
は受け取らなかった
今目の前の真っ白なノートに文字が溢れている
私には書くこ
とがある
おしまい