第7回 「樽と空間の共有」

  パクチーハウスは席の予約をすることができる。
 「混雑している」のを知っている人は、事前に予約してくださる。混雑してても
樽で飲めることを知っている人は、予約しないで飛び込んでくる。

 初めて来る方で、店に入った瞬間圧倒されている人をときどき見かける。
 「どうしたのですか?」と聞くと、私たち以外お客さんがいるとは思えなかった
との声。周りにパクチーを愛する人が存在せず、マニアックな店にふらりと寄って
みようと思ったそうだ。

 空き席がないことに一瞬失望し、唖然とした顔をしている。そこで一言。「立ち飲みの
樽もありますが」。

 立ち飲みには慣れていない人が多いようで、抵抗を示す人は多い。「また来ます」
と帰られる方もいるし、少し悩む人もいる。「あそこに見える樽ですよ」というと
何割かの人は興味を見せる。樽で立ち飲みたいという需要は一定数以上あるようだ。

 また、店主のKyo paxiは、ときどきこんなことを言ってパクチー好きの心を揺さぶる。

 「席に着くために来パクされたのですか? それともパクチーを食べるために?」

 とにかく、樽で始めてほしいのだ。このよさを体験してほしい。どっしりとした
存在に身を預け、両手を上部に置いてみたときに感じる安心感は、筆舌に尽くしがたい。

 そして樽でパクチー料理をつまみながらビールをぐびぐび飲っていると、
同じようにパクチーを好きな人がそんなにいるとは思いもしなかったお客さんが
流れ込んでいる。そして、樽を共有する。

 ここまで来れば話は早い。狭い天板の上で皿を置く場所を調整しながら、会話が
始まる。さっきまで知らなかった人が皿を置きやすくするために、急いで自分の
持ち分を食べたり、「これ食べませんか」と勧めてみたり。やがて、シェアするために
ポーションの大きいものを注文する場合もある。

 樽の上で何度赤外線通信が行われたことだろう。

[Kyo_do tsushin] No.11 2010年9月5日発行分より

■佐谷恭 kyo paxi
佐谷恭

京都大学総合人間学部在学中の19歳のときに旅を始める(現在までの訪問国数約50カ国)。2004年、「旅と平和」をテーマにした論文で、英国ブラッドフォード大学大学院(平和学専攻)を修了。

職歴は、富士通(株)で関西の新卒採用の責任者、(株)リサイクルワンの創業期のセールスマネージャー、(株)ライブドア報道部門の立ち上げ時のリーダー。

 2007年8月9日、株式会社旅と平和 を創立。同年11月に交流する飲食店をコンセプトに東京・経堂に世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」をオープンさせる。2009年4月からは、樽を囲む立ち飲みスタイルの店舗内店舗「Public'S'peace」(パブリック・ス・ピース)もスタート。
現在、新しい“交流する飲食店”(用賀)と社会起業家を対象とした仕事空間提供サービス“PieceOfPeaceシェアオフィス”を準備中。

日本手食協会理事長、日本パクチー狂会会長。
著書に「ぱくぱく!パクチー」(情報センター出版局)。